「サービス」と「ホスピタリティ」の違い(ING橋本論)

書店に足を運べば、サービス業に関わる多種多様の書籍を目にすることが出来ます。その中で最も多いものは「真のホスピタリティとは?」「心からのおもてなし」などのタイトルが付けられているホスピタリティ系のHow to本ではないでしょうか。ホテル業に携わっている皆さんなら一度は手に取ったことがあると思います。

私がホテルに就職した40年前はサービスという言葉が主流でありホスピタリティという言葉はほとんど耳にしませんでしたが、現在ではサービス産業に限らず、他産業でもごく一般的に使われています。

では早速、本題にありますサービスとホスピタリティの違いについて私の持論を述べさせて頂きます。
よくあるこの手の教科書には必ずサービスはラテン語の「servus(奴隷)」、ホスピタリティは「hospes(客人の保護)」からの派生であると始まり、サービスには主従関係があるなどと続きますが、ここではそのような解説は省きます。
一言でサービスとホスピタリティの違いを私なりに申しますと、サービスとは、「ゲストを迎え入れるに先立って事前に用意しておくもの」ホスピタリティとは、「来館されたゲストの様子や心理を伺い提供するもの」であると考えます。

サービスとは

サービスを提供する施設では、様々なサービスの在り方を考え一定の事柄を取りまとめてあります。これがマニュアルであり、このマニュアルに基づいて訓練をし、各スタッフが一定のレベルで画一されたサービスをゲストへ提供できるような仕組みになっているわけです。マニュアルをベースにしたサービスは、ゲストのニーズは考慮されず、スタッフ全員が一定のレベルでサービスを提供できる事を目的にしています。マニュアル通りのサービスの提供が出来る様になれば次は、サービスの第二段階としてゲストニーズを汲み取り、より良いサービスへ進化させていきます。このようにサービスは一定の基準を定め来館されたゲストへ提供することを言います。

ホスピタリティとは

一方、ホスピタリティは、マニュアルに基づいたサービスの一段上に位置するものと考えます。最近では、あえてマニュアルを作らずスタッフ個々のホスピタリティマインドを醸成させる手法を用いているホテルもあるようですが…ここではサービスの基本を知り、仕事に慣れ、ゲストのニーズを汲み取ることができる(サービスの第二段階)ようになりましたら、ホスピタリティマインドを持ってゲストへ接することができるようにします。

前述のとおり、サービスとの違いは、ゲストの様子や心理を伺い提供するものであり、サービスの一段上に位置するものですから、基本的には、一定レベルのサービスを提供する心構えで接遇に入ります。
※ホスピタリティの講師などをされている方には怒られそうですが、あくまでも持論です。様々な考えがありますので一考察と捉えてください。

ここで重要なことは、全てのゲストへ「手厚いおもてなしをしよう」「過剰に喜んでもらおう」と気張らない事です。ホスピタリティとは過剰なサービスをすることではないと言うことを肝に銘じてください。 
よく耳にする「ゲストへのサプライズ」などは、ゲストの期待値を超えるサービスとして有名ですが、必ずしもすべてのゲストが喜ぶわけではありません。サプライズを余計な事と感じる方もいるでしょう。人は十人十色です。※勿論、サプライズはゲストに喜んでもらえるサービスとしての効力は大きい事は付け加えておきます。

例えば、宿泊ゲストを接遇する際、ホテル側にゲストデータ(事前情報)がある場合は、その情報(趣味・嗜好・性格・利用目的、利用頻度など)を基に接遇することになります。
しかし、このデータはあくまで基本データであり、来館時のゲストの心理状況を察することには使えません。皆さんが接遇するゲストは生身の人間であり、当然ですが、いつも同じ状態で来館されるわけではありません。来館当日、仕事で嫌なことがあったり、来る途中で夫婦喧嘩をしたりとゲストの心理状態は様々です。

ここで最も重要かつ難しい作業があります。それは“ゲストの心理状態を察する”ことです。
人の心理状態を察するなんて心理学者でもない私が言うのもおこがましいですが…先ずはゲストへのファーストアプローチとなる「いらっしゃいませ」と声掛けした瞬間からその作業は始まります。その際、ゲストの反応が無反応、緊張気味、イライラ、笑顔などからゲストの心理状態を察し、話しかける声のトーンや会話量(積極的に話しかけない方が…)などを考えながら、接遇します。勿論、一言二言で人の心理など簡単に読めるものではありませんので対応を間違えるケースは多くあります。
しかし、ここで大切な事は、自分の対応が誤ったと感じたら、速やかに修正する。プロの接遇者は、対応の誤りをさり気なく修正し、ゲストに適した対応をすることが可能です。ホスピタリティとは派手な演出をすることだけではなく、日々の接遇の中で十人十色のゲストの気持ちを察する力量ではないでしょうか。

あとがき

ホスピタリティの考え方にも色々ありますが、ホテルにおいてのホスピタリティは、ボランティアではありません。商売の上で成り立っています。所謂、ホスピタリティビジネスです。誰にでも同じようなサービスを提供するわけではありません。例えば30万円のスイートルーム利用者と3万円のツインルーム利用者に対するホスピタリティには差が生じます。これは差別ではなく区別です。ホスピタリティビジネスを行う上で、効率と生産性を考慮し如何に顧客満足を感じてもらえるかも考えなくてはなりません。

この記事を書いたのは

橋本伸

橋本 伸

16年間のホテル勤務後、1997年国内初となるホテル専門人材会社、株式会社INGエンタープライズを設立し代表取締役に就任。
好きな食べ物は餃子。



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