ホテル事業における意味的価値とは “外資系企業と日本企業の違いにみる”
唐突ですが、皆さんは「意味的価値」とうい言葉を耳にしたことがありますか?
このワードは、主に製造業におけるビジネスシーンで使われている言葉です。一橋大学のイノベーション研究センター長である延岡健太郎教授は、日経クロステック2013-7/2に次のように寄稿しています。「顧客にとっての価値は、大きく二つに分類できる。『機能的価値』と『意味的価値』である。二つの価値の合計によって、顧客が払ってくれる価格が決まる」とあります。
<機能的価値とは>
例えばスマートフォンの機能的価値とは、CPUをはじめROMやRAM(メモリー類)バッテリー容量やカメラ性能などがそれに該当します。より良いスペックを備えることが自社製品の競争力を高める事になるので製品にとっては最も重要な要素です。しかし、機能性の優れた製品は、瞬く間に人気商品となり、他社でも同等のスペックを開発し、一気に普及するため、市場には、甲乙つけがたい同じような商品が出回りコモディティ化現象がおきてしまいます。どんなに優れた製品でも時間の経過とともに似たような製品が開発され、自社製品の差別化が難しくなると言いうわけです。機能的価値とは、製品開発にとっては避けられないファクターであることは間違いありませんが、1分1秒で進化する時代にとっては、当然あるべき価値という位置づけになってしまいます。
<意味的価値とは>
一方、意味的価値とは、ユーザーの感性や主観によって機能的価値に上積みされる価値の事を言います。米国のアップル社が開発したiMac、iPhone、iPadなどは、他社と同等の機能的価値であったとしても、色、デザイン、ファッション性、手触り感など、ユーザーが体験して感じた主観的な感覚が価値を意味づけし、更なる価値を付加させることにより商品の優位性を保っています。特にコアなファンを魅了し、高価値化させた例がそれに該当します。他にもダイソンやスターバックスの商品も意味的価値が付与されているのではないでしょうか。意味的価値とは、定量的に測れない感性価値とも言えるでしょう。では、この意味的価値を製造業からホテル業界に置き換えて考えてみます。
「ライフスタイルホテル」という新ジャンルが登場
先ず、「ホテル_意味的価値」とGoogle検索してみましたが、該当する記述は見当たりません。前述の通り、製造業で引用されている言葉なのでホテル業界には浸透していないようです。ここ数年のホテル業界は、2020東京五輪需要を見込んで東京・大阪を中心に開発が相次ぎホテル供給過多と指摘されています。その殆どが宴会場や数多くのレストランを付帯しない宿泊主体型ホテルです。どれも同じように機能的でシンプルな施設が立ち並び差別化されずにコモディティ化してしまったと言えるのではないでしょうか。このような状況下にあって、登場してきたホテルが「ライフスタイルホテル」という新たなジャンルです。
都心部を中心に開業したアンダーズ東京(Hyatt)、ハイアットセントリック銀座(Hyatt)、PullmanTokyo田町(AccorHotels)、東京エディション虎ノ門(Marriott)、モクシー東京錦糸町(Marriott)、NOHGA HOTEL UENO TOKYO(野村不動産)、大阪にも多々ありますが、Zentis Osaka(パレスホテル)、W Osaka(Marriott)など、これらのホテルは、宿泊機能とは別に意味的価値を有していると思われます。
このライフスタイルホテルとは、従来のビジネスホテルやカプセルホテルなどの宿泊特化型とは異なり、デザイン性が高いだけではなく、宿泊に留まらない付加価値や、革新的で個人的なサービスを提供するホテルである。
「引用」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より
<意味的価値創造の外資優位性を考える>
前述したホテルは、この意味的価値を戦略的に展開しているように感じます。
例えばMarriottが展開するモクシー東京錦糸町やモクシー大阪新梅田では、「Bar Moxy」がホテルのチェックインカウンターを兼ねており、ロビーにはダーツや多種のゲームが設置され、今迄のホテルとは一線を画した斬新なデザインが施されています。
Marriottという高級ブランドが単に宿泊主体型のホテルに進出するのではなく、ミレニアル世代をターゲットに新たなる価値を見出し付与したのがモクシーであり、まさしく意味的価値を有したホテルなのではないでしょうか。お気づきの通り、意味的価値を有している企業は、圧倒的に外資系であることが分かります。製造業だけでなくホテル業においても意味的価値については、外資系企業の特権のように感じてしまうのです。スペックは日本も外資もかわらない。いや、もしかすると日本企業の方が勝っているかもしれません。しかしながら、感性を司る意味的価値を付加させる作業は、日本人は苦手なのではないでしょうか。自動車、時計、カメラ、家電、どの分野においてもMade in JAPANは、世界に引けを取らない優秀な商品を世に送り出している事は周知のとおりですが、意味的価値が機能的価値に上積みされている商品やサービスを見出すことが少ないような気がします。
<日本流の意味的価値に期待が高まる>
意味的価値を掘り下げていくと、ユーザーが主観的に付加する価値であり、メーカー側が主観的に付与するものではないという文言が頻繁にでてきます。ご興味のある方はWEBや書籍で更に掘り下げてみてください。兎に角、意味的価値とは一朝一夕で培うことができるモノではないようです。あくまでも私感ですが、日本人が感性を司る仕事が苦手な理由は、学校教育にあるような気がします。日本の詰め込み教育は、記憶を重視した暗記型教育です。一方、米国では、「今日の大統領の演説を聞いて貴方の意見を聞かせて」と問う、あくまでも主観的な答えを求める教育であると聞いたことがあります。対比は極論ではありますが、教育方法の良し悪しではなく、感性を養うという意味ではその辺の差にあるのではないでしょうか。最近、国内においても自動車メーカーのマツダや家電メーカーのバルミューダなどは意味的価値を創造している企業に感じますが、皆さんは、この意味的価値をどのように考えますか。
日本のホテル企業は、もともと機能的価値が優れているため“日本流の意味的価値”が創造できれば業界の活性化に繋がり延いては外資系ホテルを凌ぐ施設が生まれることを期待したいものです。いつまでも「お・も・て・な・し…」に頼る時代は終わったような気がします。