日本の宿泊施設のルーツはどこから?教えて!

海外からも「おもてなし」で脚光を浴びている日本のホテルや旅館、そのルーツはどこからきているのでしょうか?今回は日本の宿泊施設の発達史について紐解いていきたいと思います。

日本の宿泊施設の始まり

日本はもともと農耕民族であることなどから、人々は暮らしている土地から離れることが少なく、またその必要性もありませんでした。平安時代から貴族で流行した寺社への参詣は、鎌倉時代には武士にも広まり、室町時代に入ると農民や庶民へも普及し始めました。当時の参詣者は数日にわたって参拝を行うことも多く宿泊施設が必要でしたが、本来は僧侶や神職のみが宿泊していた宿坊(宿房)が、やがて貴族や武士をはじめ庶民の参拝者も泊まれる施設に移り変わっていきました。これが日本の宿泊施設の始まりになります。宿坊はそもそも神社やお寺であるため、運営は神職や僧侶が行っておりましたが、貴族や武士が宿泊するようになると寺社周辺の御師(おし・おんし)が担うようになりました。御師は特定の寺社に所属して、その寺社へ参詣者を案内し参拝などの世話をする役目も負っていましたが、寺社の庇護者である貴族や武士に対しては、特に手厚い心配りをしていたと思われます。これが日本の宿泊施設における「おもてなし」の源流になったのではないでしょうか。

宿泊施設の普及時期

その後ずっと時代が下り、慶長6(1601)に徳川家が上方(関西)と江戸との連絡や運搬の手段として東海道に駅(宿場)を設置し、寛永元年(1624)に品川から大津までの53駅が完成しました。各駅には大名や旗本、幕府役人、公家などの宿泊所として本陣や脇本陣が置かれ、その他庶民が宿泊する旅籠屋や木賃宿が立ち並ぶようになりました。旅籠の語源は馬の飼料を入れる籠(かご)になりますが、時代を経て賄い付の宿を指すようになりました。今のビジネスホテルに近い位置づけと言えますが、12食付きが一般的で、夕食は一汁二・三菜(ご飯・汁物・漬物・おかず23)が標準でした。また宿泊代は概ね一泊200 300文(現在の貨幣価値で3,000 5,000円程度)だったようです。また東海道を始め、中山道や甲州街道、日光街道、奥州街道の五街道や脇海道が整備されると、湯治を目的として温泉地に赴く人も増えました。湯治は基本的に温泉地に長期間滞留して行われる温泉治療であるため、滞在できる宿が存在しました。この宿は長期滞在のため金銭的負担を少なくする意味や、病気の症状によっては食事制限もあるため基本的に自炊でした。基本的には湯治目的ではない人が泊まることができなかったようですが、温泉の魅力に惹かれ一泊湯治と称して保養目的で利用する人もいたようです。それが徐々に一般化していき、サービスも充実し始め、現在の温泉地の旅館やリゾートホテルの始まりとなりました。

日本のホテルのスタート

江戸時代末期から明治にかけて来日外国人が増え始めたことで、外国人向けの宿泊施設を用意する必要に迫られ、日本で初めてのホテルとして築地ホテル館が明治元年(1869)に開業しました。部屋には水洗トイレが付き、シャワー室やバーも併設されており近代的なホテルだったようです(わずか4年で焼失)。その後、オリエンタルホテル(神戸市:1870)、日光金谷ホテル(1873)、富士屋ホテル(箱根町:1878)、帝国ホテル(1890)などが次々にオープンし日本のホテルの歴史の幕開けとなりました。とはいえ日本人にとってまだホテルは馴染みがなく、20世紀に入ってポツポツと都内を中心にホテルが開業しましたが、数えるほどの状況でした。

一気にホテル建設ラッシュに湧いたのが東京五輪前になります。東京五輪の開催が決まったものの、世界から来日する選手や役員、報道関係や観戦客を受け入れるだけのホテルがなかったからです。その当時、オリンピックが終わるとその都市のホテル需要は落ち込むものでした。ただ日本は昭和29(1954)から19年間の長きに渡り高度経済成長を遂げたことから、日本企業の宿泊・宴会需要などが大きく伸び、東京五輪閉幕後も東京のみならず日本各地でホテルの開業が続きました。

外資系ホテルの始まり

東急電鉄がヒルトンインターナショナルと提携し、昭和38(1963)に東京ヒルトンホテルをオープンさせたのが外資系シティホテルの始まりになります。ただその後は他の先進国に比べ日本の地価が高いことなど採算性の観点から外資系ホテルの進出は滞っていました。外資系ホテルの開業が増え始めたのはバブル経済が崩壊した1990年代に入ってからになります。地価下落でローコストオペレーションが可能になったことと、先々で訪日外国人が増えることを見込んでのことでした。実際、2003年からビジットジャパンキャンペーンが始まり、その政策が功を奏し年々訪日外国人が増え、2019年には3188万人まで増えてきました。その成長に併せて外資系ホテルの開業も相次いでいます。

現在の日本はモノがあふれ、「欲しいモノは」以前に比べ少なくなってきました。他方、全国に新幹線が張り巡らされ、首都圏を中心に高速道路も整備され、LCC(ローコストキャリア/格安航空会社)が相次ぎ就航したことなどで人の移動が格段に便利になりました。今後は人々のお金の使いみちが「モノからサービス(行楽)」にスイッチしていくことでしょう。ホテルや旅館業は様々な不安要素(人手不足・多言語対応など)も抱えていますが、まだまだ発展の余地を大きく残していると言えます。

この記事を書いたのは

奥泉 剛

大手ホテルチェーンの都内シティホテルにて、法人宴会セールスに従事。その後、派遣業界に身を投じ事務系や料飲系派遣の営業として勤務。現在は(株)INGにて転職相談責任者としてコーディネート業務


 

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