あるレストランサービスマネージャーの忘れ得ぬ出来事。

Waiter serving salad at restaurant

ホテルのレストランサービスの現職マネージャーに伺ったエピソードをご案内します。ホテルには様々なお客様がいらっしゃることが実感できるお話です。

シティホテルのレストランサービスとして働き始めて10年目、ようやくメインダイニングのマネージャーに昇格したばかりのことです。私はそれまで様々な経験を積んでおり、接客については誰にも負けない自信を持っていました。

その日も店内に静かにジャズが流れ、いつもの穏やかなディナータイムが始まるかに思えました。7時を少し過ぎたころ、2歳くらいのお子様を連れた親子3人が来店しました。ご予約は頂いていませんでしたが、火曜日の夜ということもあり、席にも余裕があったのでスタッフが奥の席にご案内いたしました。

最初は何事もなく食事が進んでいましたが、突然その親子連れのお子様が火のついたような勢いで泣き始めました。しばらく様子を見ていましたが一向に泣き止まず、その席に近いお客様から呼ばれ「どうにかならないの?」と言われてしまいました。

私は恐る恐る「まことに申し訳ございませんが、周りのお客様もお食事をされていらっしゃいますので、お子様を少し店外であやして頂くことはできませんでしょうか?」とお願いをいたしました。するとご主人が「そうですよね。いいですよ!」とサッとお子様を抱きかかえ、店外に連れて行きました。そこにたまたま支配人が通りかかり、ご主人と一緒に子供をあやしたそうです。10分もするとお子様はゴキゲンな様子で席に戻ってきました。

赤ワインが注がれご夫婦は乾杯し、まもなくメインディッシュ運ばれるというところで再びお子様が店内に響き渡るような大声で泣き始めました。

さすがに今度は自分の判断で再び「恐れ入りますが、お子様を…」と言いかけたところ、「何なのよ!私たちはお客なのよ!何度も何度も外へ出ろだなんておかしいでしょ!」と奥様がすごい剣幕で怒り始め、「もういい。あなた帰りましょう!」とバッグを持ってスタスタと店外に出ていこうとしました。慌てて後を追いかけて呼び止めましたが「あなたは私たちが悪いみたいに言うけど、じゃあホテルは何かケアしてくれたの?第一、小さい子供連れは入店できないとも書いてなかったし、入るときもホテルからは何も言わなかったじゃない!」確かに奥様の言い分もあると感じました。ご主人が「ホテルの人が私と一緒に子供をあやしてくれたよ」と取り成してくださいましたが、奥様の怒りは収まらず、しばらく入口付近で大きな声を出していましたが、支配人が丁重にお詫びを申し上げ何とかお帰り頂きました。

この事件はこれでは終わらず、奥様は翌日、総支配人あてに電話をかけてことの次第を説明し、「対応したあのマネージャーの態度が気にくわない」などと言ったそうです。最終的にはレストランのサービスチケットをお渡しすることで何とか鉾を収めて頂きましたが、この事件は瞬く間にホテル全体の知るところになりました。

私は過去にこれほどまでにお客様を怒らせてしまったことが無かったので、自信喪失し当日は帰宅しましたが、翌日出社してみると支配人からは「お前の対応は間違っていなかった」と励まされ、総支配人からも「昨日、こういう事件があり、○○君の対応が悪いとお客様は仰っていましたが、私は彼が間違った対応をしたとは思えない。・・・」というようなメールを全社員あてに送ってくださいました。ただ今後メインレストランとバーの前には「3歳以下のお子様のご来店はご遠慮していただくことがございます」との立て看板を立てることになりました。

上司から「お前が悪いからあんな大事件に発展してしまったんだぞ」と言われてもおかしくない状況で、みなが私を信じてくださったことが、どんなに嬉しく励みになったことか。救われた思いでした。反面、正しいと思った行動も一方でお客様を不快にさせてしまうこともあると大いに反省しました。

後日、レストランチケットを携え、例の家族連れがお越しになりました。「先日はご不快な思いをさせてしまいまして誠に申し訳ございませんでした」と誠心誠意お詫びしましたところ、奥様はニコッとされ何もおっしゃいませんでした。その後、この親子連れはリピーターとなり年に数回はご利用頂くようになりました。苦情に発展してもその後の対応を誤らなければ、顧客になるということを実感する事件でした。

この記事を書いたのは

寄稿記事 

この記事は寄稿頂いた文章をINGにて編集し、掲載しています。


 

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